このテキストは2001年の感覚代行シンポジウムで発表したものです。

スクリーンリーダー使用者のための単漢字詳細説明読みガイドライン


The Guideline of Japanese Kanji explanatory reading for the users of Japanese screen readers


  藤沼輝好: 統合システム研究所
  渡辺恵理子: ハイデルベルク(教育)大学・統合システム研究所
  鈴木沙耶: 統合システム研究所
  Teruyoshi Fujinuma: Integral Systems Technical Advanced Lab.
  Eriko Watanabe: Paedagogische Hochschule Heidelberg
Integral Systems technical advanced Lab.
  Saya Suzuki: Integral Systems Technical Advanced Lab.

 情報機器の発達により視覚障害者がコンピューターを用いて日本語文章を読み書きする事が就労や教育の現場で要求される機会が多くなるとともにそれまで点字にはなかった漢字に関する情報の修得が求められるようになってきた。
 コンピューターを用いた日本語入力システム及び音声をはじめとする日本語文章の読み下し技術の向上には目を見張るものがあるが専門的分野の中での日本語文章には同音異義の熟語等仮名文字や音読だけでは不確実なものが少なくない。これらは情報機器が更に発達しても完璧にすることは不可能に近く最終的には人によるチェックが必要となる。漢字文章の確認は視覚によって漢字を読みそれが正しく用いられているかどうかを確認する方法が通常用いられているが、漢字に関する知識さえ持ち合わせていれば視覚に障害があってもそれに近い仕事ができることは視覚障害者の自立及び社会的地位の向上の面でも意義のある事と考えられる。
 現在点字及び音声ディスプレイを用いて視覚障害者が漢字を入力及び確認する方法には以下のようなものがある。

【漢字確認及び入力方法】


1 JISもしくはshift-JIS等の漢字コードを直接確認もちくは入力する これは、漢字コードを覚えているか、またはコード表を手元に置いて確認する必要があり、円滑な文書作成には適さない。
2 点字の漢字を使用する これは漢字を表現するための点字である、長谷川貞夫氏の考案した6点漢字(もしくは川上泰一氏の考案した8点の漢点字を用いて入力する方法で、一般の点字である仮名点字とは異なった点字及びその体系を修得する必要があり、一般的な方法とは言えない。
PCTalkerではパソコンに接続した点字ディスプレイ装置を用いた6点漢字及び漢点字による確認方法も採用されている。
 さらに、95Reader(2000Reader)では長谷川貞夫氏がそれぞれの6点漢字に対応した漢字の音訓読みが採用されており、また、PC−Talkerでは長谷川氏の6点漢字音訓読みと川上氏の漢点字の符号読みによる音声での単漢字の確認もできるようになっている。
3 漢字説明読みを使用する これは漢字を音声で読み上げる際に、その漢字の意味や用いられている熟語等、文字の使われ方の説明が読み上げられその中から書き手が意図する最も適した文字を選ぶ方法で、電話等の音声メディアで住所等の固有名詞の漢字を説明する際に用いられる手段にきわめて近い方法であり、なじみやすい。そのためかなり初期の段階から視覚障害者が漢字を入力したり確認したりする際の方法としてワープロや仮名漢字変換システムの中で使用され、現在使用されているWindows用スクリーンリーダーの95READEr(2000Reader・PC−Talker・Outspoken・JAWSの各スクリーンリーダーでは漢字の確認のために3の漢字詳細説明読みが採用されている。
 3の説明読みで視覚障害者が漢字を理解するためには使用者自身が漢字に関するある程度の意味や音訓読みを知っていなければならず、また、難しく使用例が分かりにくい文字に関しては文字の構造で説明しなければならない場合もあり、視覚障害者教育現場との連携も必要となってくる。
 実際の漢字入力に際しては、日本語仮名漢字変換システムを使用するため一文字ずつの正確な読みを修得している必要はないことがほとんどであるが、熟語や同音異義語及び人名等、仮名漢字変換辞書に登録されていない文字に関しては説明を聞いて文字を確定する必要があり、その際に読み上げられる説明はできるだけ平易な言葉を用いて視覚障害者ばかりでなく、多くの人に理解できる標準的な読みである事が望ましい。
  しかし、これらの漢字説明読みデータを作成するには、コンピューター技術の専門家ばかりでなく、日本語解析及び漢字に関する知識も必要であるため、明確な基準は無く、それぞれのメーカーの経験によって異なる読みが割り当てられていることが多く、同じ文字でも、画面を見ていないユーザーにとっては違う文字と認識してしまうことも少なくない。
 統合システム研究所ではソフトウェアーメーカーやユーザーにこれらの問題を改めて認識していただきたく、初等教育現場をはじめ、専門的な分野で働く視覚障害者までが使用できる統一的なガイドラインを作成した。

【漢字説明読みの基準】


 現在パーソナルコンピューターで標準的に使用されている6715文字の漢字についてそれぞれ異なった読みを割り当てて行く場合、漢字の歴史的文化的特性上同じ意味に用いられる同音訓文字も存在する。これらの文字に関してはその文字が多く使用されている例語を挙げることで判別できるようにすることが妥当と思われるが、説明読みを決定するに当たっては厳密すぎる読み基準の規定は文字に対するイメージの固定化や文字表現の柔軟性を損なう事も予測されるために判別できる最低の基準を設けておき、使用者の社会経験・使用分野・知識の程度によって変更もできるような柔軟性も備えている必要がある。
 上記の事柄を考慮して単漢字説明読みの基本的ガイドラインを示すと以下のようになる。
 これらのうち、レベルが高い項目はレベルが低い項目に対して優先順位が高い。また、日常的に使用頻度の高い漢字には高いレベルの読みを設定する。

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 漢字説明読みに関するガイドライン
(これは、視覚障害者がスクリーンリーダーを使用してパソコンで漢字を入力する際及び、画面に表示された漢字1文字を判別する目的で使用される漢字説明読みデータ作成の際にその読みの妥当性を計る目的で作成したガイドラインである。)
level10 日本国内で使用されている読みや説明を用いる。
 説明読みに固有名詞を使用する際は人名は使用しない。
【例】
奎 = キヨウラケイゴノケイ
 やむを得ず地名を使用する際は十分注意する。
耶 = ヤバケイノヤ
 (「ヤマタイコクノヤ」という読みは、「ヤマタイコク」が「邪」を用いる事があるために「ヤバケイ」を用いた。)
level9 できるだけ音節数が少なく且つ優しい語を用いる。
level8 数に関する文字では日本語の標準的な語彙の中に含まれている読みを用いる。
【例】
一 = カンスウジノ1
level7 生物に関する漢字は以下のような読みを用いる。
【例】
鯵 = サカナノアジ 虻 = ムシのアブ
烏 = トリノカラス 鷁 = ミズトリノゲキ
鴫 = トリノシギ 鷸 = トリノカワセミ(シギとは読まない)
 (以上のように一般的呼び名に従って、「昆虫=むし」でも問題は起こらない。また、「鷁」のように実際には存在しない水鳥でも「水鳥」として扱う。)
level6 学習漢字(常用漢字の内、義務教育期間中に修得する漢字)に関しては、小学校学習指導要領にある「学年別漢字配当表」に掲げられている当該学年でも理解できる読みを用いる。
level5 旧字や異体字・俗字等に関してはそれを明記する。
【例】
鶏= ニワトリノケイ 鷄 = ニワトリノキュージノケイ
槙 = ショクブツノまき 槇 = ショクブツノまきのキュージ
 特にShift-JISFA5C「\」〜Shift-JIsFC4B「K」の文字群の中にはこの説明が望ましい文字が多くある。
level4 十二支の動物名は、
十二支だけで使用されるものだけを「エトノ??」と表し、「子(ネ)」や「午(ウマ)」等一般的に日本語の平易な文では別の読みとして使用されているのでそれを優先する。 【「エトノ」と入れる動物名】
丑(ウシ) 寅(トラ)
卯(ウ) 辰(タツ)
巳(ミ) 酉(トリ)
戌(イヌ) 亥(イ)
level3 音読みでは基本的に「漢音」を用いるが、仏教用語や一般的に使用されている音が「呉音」の場合はそれを用いる。
【呉音の例】
音 =オン 色 = ショク
level2 文字の形も類似していて同音訓の文字に関してはその文字の片や作りから使用されている例を挙げて説明する
【例】
訓 音
郭 = クルワ カク = ジョウカクリンカクノかく
廓 = クルワ カク = クルワユウカクノカク
level1 漢字には存在するが、説明や例語を挙げにくい文字に関しては作りや基になった文字の組み合わせを説明する。
【例】
莉 = くさかんむりにりえきのり
茉 = クサカンムリニすえのばつ
 特にShift-JISFA5C「\」〜Shift-JIsFC4B「K」の文字群の中にはこの説明が望ましい文字が多くある。

 以上のガイドラインは漢字の詳細説明読みを規定及び制限するものではないが、漢字読みの品質をある水準に保ち、公の場で使用され市場に流通させるための最低基準としてユーザーの混乱を避けるために維持されるべきものと考える事が望ましい。
 実際、現在市販されているスクリーンリーダーの中で詳細説明読みの例を挙げると、95Readerでの「莉(オカダマリコノリ)」、「茉(オカダマリコノマ)」、「朕(チンオモウニノチン)」等詳細読みとしては不適当な読みが登録されている。
また日本アイ・ビー・エムが日本語化したJawsでは「李(リカニカンムリヲタダサズノリ)」等と、単に(スモモノリ)と表現した方が分かりやすい読みもあり今後の改善が望まれる。このような問題は、漢字の説明に「例を挙げる」等のある特定の方法論だけを適応させようとすると起こってくる問題で、この点からも上記のようなレベルを設定して、文字によっては説明の方法を柔軟に決定できるガイドラインが必要と考えられる。

 説明読みの拡張
  上記の漢字説明読みガイドラインは全角及び半角記号の説明読み決定の際のガイドラインやグラフィックアイコンの説明読みのガイドラインへ拡張することが可能である。特に括弧類では、「閉じ」を先に読ませることで使用者ができるだけ短時間にその記号を判別できるようにすることが望ましい。
複数存在する記号の読みについては、一般的記号としての普及度を考えて決定する事が望ましい。例えば、Jawsでは「・(ナカグロ)」という読みが採用されている。「・(ナカテン)」には(ナカグロ)という読みもあり、印刷業界では(ナカグロ)が用いられているが、一般的には(ナカテン)である。
 アルファベットや仮名文字では電話電報や航空管制等の現場で使用されているフォネティックコードを用いることで音声の聞き取りにくい場合の便宜をはかる。
ふぉねてぃっくコードはもともと無意味な言葉の羅列となるためにそれぞれの文字に決められた読みを割り当てる事が必要である。

  教育現場との連携
 これらの詳細説明読みを使用して漢字や記号を理解する方法は視力障害者の教育現場との連携が必要であり、それぞれの能力に応じた漢字の音訓や使い方等の理解ができるような視覚障害児教育現場でも行われて行くことは将来に向けて必要と思われる。


参考文献


「広辞苑」 岩波書店
「新字源」 角川書店
「康熙辞典」 講談社
「三省堂ワープロ漢字辞典」 三省堂
「小学校学習指導要領」


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