情報機器の発達により視覚障害者がコンピューターを用いて日本語文章を読み書きする事が就労や教育の現場で要求される機会が多くなるとともにそれまで点字にはなかった漢字に関する情報の修得が求められるようになってきた。
コンピューターを用いた日本語入力システム及び音声をはじめとする日本語文章の読み下し技術の向上には目を見張るものがあるが専門的分野の中での日本語文章には同音異義の熟語等仮名文字や音読だけでは不確実なものが少なくない。これらは情報機器が更に発達しても完璧にすることは不可能に近く最終的には人によるチェックが必要となる。漢字文章の確認は視覚によって漢字を読みそれが正しく用いられているかどうかを確認する方法が通常用いられているが、漢字に関する知識さえ持ち合わせていれば視覚に障害があってもそれに近い仕事ができることは視覚障害者の自立及び社会的地位の向上の面でも意義のある事と考えられる。
現在点字及び音声ディスプレイを用いて視覚障害者が漢字を入力及び確認する方法には以下のようなものがある。
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漢字説明読みに関するガイドライン
(これは、視覚障害者がスクリーンリーダーを使用してパソコンで漢字を入力する際及び、画面に表示された漢字1文字を判別する目的で使用される漢字説明読みデータ作成の際にその読みの妥当性を計る目的で作成したガイドラインである。)
level10 日本国内で使用されている読みや説明を用いる。
説明読みに固有名詞を使用する際は人名は使用しない。
【例】
奎 = キヨウラケイゴノケイ
やむを得ず地名を使用する際は十分注意する。
耶 = ヤバケイノヤ
(「ヤマタイコクノヤ」という読みは、「ヤマタイコク」が「邪」を用いる事があるために「ヤバケイ」を用いた。)
level9 できるだけ音節数が少なく且つ優しい語を用いる。
level8 数に関する文字では日本語の標準的な語彙の中に含まれている読みを用いる。
【例】
一 = カンスウジノ1
level7 生物に関する漢字は以下のような読みを用いる。
【例】
鯵 = サカナノアジ 虻 = ムシのアブ
烏 = トリノカラス 鷁 = ミズトリノゲキ
鴫 = トリノシギ 鷸 = トリノカワセミ(シギとは読まない)
(以上のように一般的呼び名に従って、「昆虫=むし」でも問題は起こらない。また、「鷁」のように実際には存在しない水鳥でも「水鳥」として扱う。)
level6 学習漢字(常用漢字の内、義務教育期間中に修得する漢字)に関しては、小学校学習指導要領にある「学年別漢字配当表」に掲げられている当該学年でも理解できる読みを用いる。
level5 旧字や異体字・俗字等に関してはそれを明記する。
【例】
鶏= ニワトリノケイ 鷄 = ニワトリノキュージノケイ
槙 = ショクブツノまき 槇 = ショクブツノまきのキュージ
特にShift-JISFA5C「\」〜Shift-JIsFC4B「K」の文字群の中にはこの説明が望ましい文字が多くある。
level4 十二支の動物名は、
十二支だけで使用されるものだけを「エトノ??」と表し、「子(ネ)」や「午(ウマ)」等一般的に日本語の平易な文では別の読みとして使用されているのでそれを優先する。 【「エトノ」と入れる動物名】
丑(ウシ) 寅(トラ)
卯(ウ) 辰(タツ)
巳(ミ) 酉(トリ)
戌(イヌ) 亥(イ)
level3 音読みでは基本的に「漢音」を用いるが、仏教用語や一般的に使用されている音が「呉音」の場合はそれを用いる。
【呉音の例】
音 =オン 色 = ショク
level2 文字の形も類似していて同音訓の文字に関してはその文字の片や作りから使用されている例を挙げて説明する
【例】
訓 音
郭 = クルワ カク = ジョウカクリンカクノかく
廓 = クルワ カク = クルワユウカクノカク
level1 漢字には存在するが、説明や例語を挙げにくい文字に関しては作りや基になった文字の組み合わせを説明する。
【例】
莉 = くさかんむりにりえきのり
茉 = クサカンムリニすえのばつ
特にShift-JISFA5C「\」〜Shift-JIsFC4B「K」の文字群の中にはこの説明が望ましい文字が多くある。
以上のガイドラインは漢字の詳細説明読みを規定及び制限するものではないが、漢字読みの品質をある水準に保ち、公の場で使用され市場に流通させるための最低基準としてユーザーの混乱を避けるために維持されるべきものと考える事が望ましい。
実際、現在市販されているスクリーンリーダーの中で詳細説明読みの例を挙げると、95Readerでの「莉(オカダマリコノリ)」、「茉(オカダマリコノマ)」、「朕(チンオモウニノチン)」等詳細読みとしては不適当な読みが登録されている。
また日本アイ・ビー・エムが日本語化したJawsでは「李(リカニカンムリヲタダサズノリ)」等と、単に(スモモノリ)と表現した方が分かりやすい読みもあり今後の改善が望まれる。このような問題は、漢字の説明に「例を挙げる」等のある特定の方法論だけを適応させようとすると起こってくる問題で、この点からも上記のようなレベルを設定して、文字によっては説明の方法を柔軟に決定できるガイドラインが必要と考えられる。
説明読みの拡張
上記の漢字説明読みガイドラインは全角及び半角記号の説明読み決定の際のガイドラインやグラフィックアイコンの説明読みのガイドラインへ拡張することが可能である。特に括弧類では、「閉じ」を先に読ませることで使用者ができるだけ短時間にその記号を判別できるようにすることが望ましい。
複数存在する記号の読みについては、一般的記号としての普及度を考えて決定する事が望ましい。例えば、Jawsでは「・(ナカグロ)」という読みが採用されている。「・(ナカテン)」には(ナカグロ)という読みもあり、印刷業界では(ナカグロ)が用いられているが、一般的には(ナカテン)である。
アルファベットや仮名文字では電話電報や航空管制等の現場で使用されているフォネティックコードを用いることで音声の聞き取りにくい場合の便宜をはかる。
ふぉねてぃっくコードはもともと無意味な言葉の羅列となるためにそれぞれの文字に決められた読みを割り当てる事が必要である。
教育現場との連携
これらの詳細説明読みを使用して漢字や記号を理解する方法は視力障害者の教育現場との連携が必要であり、それぞれの能力に応じた漢字の音訓や使い方等の理解ができるような視覚障害児教育現場でも行われて行くことは将来に向けて必要と思われる。